■雨とカエルと王国■
昔々ある所に、雨ばかり降っている王国がありました。
どの位降り続けているかというと、二十年間ずっと降り続いています。
そのためお城のまわりには大きな水たまりが出来て、今では湖になっていました。
このお城には一人のお姫さまが住んでいました。
お姫さまは今年で十才になりますが、生まれてから一度も太陽を見たことがありません。
ですからお姫さまは、お話の中でしか聞いたことがありませんが、お日さまの光にあたためられたフカフカの草原の上を走り回りたいと思っていました。
その日も雨は降り続いています。
お姫さまは窓の外をながめながらつぶやきました。
「あ~あ、どうしたら雨はやむのかしら…」
すると湖の中から一匹の小さなアマガエルが顔を出しました。
「このお城が水の中に沈んでしまうまで雨はやまないよ」
「どうして?」
お姫さまは聞きました。
「ボクは知らないよ」
「あっ、まって」
お姫さまが呼び止めましたが、アマガエルは湖の中へ帰ってしまいました。
お姫さまはとほうにくれて、また窓から湖をながめました。
するとさっきのアマガエルがまた顔を出しました。
「ボクは知らないけど、知ってるひとを連れて来たよ」
やって来たのはカメでした。
このカメはもう百年も生きているそうです。
「この雨はこの湖に住むぬしのしわざじゃよ。
この城が建てられる前、ここには小さな池があったんじゃ。
しかし城を建てる時にその池はうめられ、池に住んでいた多くの生き物たちが死んだんじゃ。
ぬしは残った生き物たちを連れて、池につながっとった水脈から命からがら逃げ延びたんじゃ。
それから城は完成したが、ぬしは怒ってこの城に呪いをかけた。
この城が水の中に沈むまで、雨が降り続くようにとな」
お姫さまはこのお城が建てられる時にそんなことがあったなんて知りませんでした。
もし本当なら悲しいことです。
「カメさん。ぬしさまはどうしたらゆるしてくれるのでしょうか?」
お姫さまはカメに聞きましたが、カメはゆっくりと首を横に振りました。
「ゆるしてはくれんじゃろうな。でももしかするとぬしが逃げる時になくしたという大事な宝玉を見つけることが出来ればゆるしてくれるかもしれんのう」
「その宝玉ってどこにあるのですか?」
お姫さまは必死になって聞きました。
「そうさなぁ。城の地下のまだ下に洞くつがあって、そこのどこかに落ちていると言われている。
城の基礎は頑丈で、ぬしもそこには入れんと言っておった」
お姫さまはその宝玉を探しに行こうと決心しました。
「私が探してきます」
「出来るかな?洞くつは暗く、何がひそんでいるかわからない所じゃぞ」
「でも行きます。お城を守るためと、ぬしさまにおわびをしたいから…」
「ではこれを持って行きなさい。これは暗いところで光る水晶じゃ」
カメは水の中から手のひらに乗るくらいの玉を取り出して、お姫さまにわたしました。
「それからお供にこのアマガエルを連れて行きなされ」
お姫さまはアマガエルとともに地下へと降りて行きました。
「ここだよ」
アマガエルに教えられた地下の壁を押すと、洞くつに続く穴がポッカリと開きました。
中は真っ暗でしたが、カメに渡された玉を出すと、あたりを照らし出しました。
お姫さまは勇気を出して洞くつの中に入りました。
洞くつの中は岩肌がゴツゴツしていて不気味な感じがしました。
ひんやりと少し寒いような気もします。
「こっちだよ」
お姫さまは本当はものすごく怖かったのですが、がんばってアマガエルの後について行きました。
洞くつの天井からは水がしたたっていて、下は水でぬれています。
時々頭の上に、ポタッとしずくが落ちてきて、お姫さまはそのたびにビクッとしました。
それでもすべって転ばないように、慎重に前に進んで行きました。
やがて少し広くなった突き当たりのへやに出ました。
お姫さまは宝玉がないか探しましたが、どこにもありません。
「アマガエルさん、どうしよう。宝玉がないの」
するとアマガエルは言いました。
「宝玉はちゃんとあるよ。君が持っているのが宝玉なんだ」
「え?」
お姫さまが持っているのはさっきカメからもらった水晶玉です。
「池のぬしはさっきのカメなんだ。ぬしは呪いをとくために、君の優しさと勇気を試したんだよ。
君はちゃんとその優しさと勇気を見せた。これで雨はやむよ」
お姫さまはお城に戻りました。
そこにはカメが待っていました。
「どれ、宝玉を見せてもらおうか」
お姫さまが水晶玉を取り出すと、不思議な事にさっきまでは透明だった玉が七色にかがやいています。
「これはあんたの優しさと勇気に反射して光っているのじゃよ。
あんたのその優しさと勇気にめんじて、呪いを解こう」
そう言ってカメが宝玉を空に放ると玉は雲に吸い込まれて消え、雲はドンドンと晴れていきました。
真っ青に晴れた空には、太陽が輝き、七色の虹が掛かっています。
お姫さまは生まれて初めて見る太陽のまぶしさに感動しました。
それからというもの、この王国に雨が降り続けることは、二度とありませんでした。
☆おわり☆ |